学校で気になる子がいる(学校教諭向け)

 

〈生徒の「救いを求める叫び(自殺の危険のサイン)」に気づくには〉

・生徒の自殺の危険のサインに早期に気付くためには、日頃から、「落ち込んでいる様子はないか」、「普段と違った言動をしていないか」等、自殺予防の観点から生徒の様子をきめ細かく観察することが大切です。次のようなサインに気付いた場合には、関係する職員と情報共有をしながら「複数の目」をもって対応しましょう。

 

① これまで関心のあった事柄に対して興味を失う。

② 注意力が低下し、集中できなくなる。成績が急に落ちる。

③ いつもなら楽々できるような課題が達成できない。

④ 不安やイライラが増し、落ち着きがなくなる。 家出や放浪をする。 投げやりな態度が目立つ。

⑤ 身だしなみを気にしなくなる。

⑥ 健康や自己管理がおろそかになる。過度に危険な行為に及び、実際に大怪我をする。

⑦ 不眠、食欲不振、体重減少等の様々な身体の不調を訴える。

⑧ 自分より年下の子どもや動物を虐待する。

⑨ 学校に通わなくなる。友人との交際をやめて、引きこもりがちになる。

⑩ 乱れた性行動に及ぶ。

⑪ 自殺にとらわれ、自殺についての文章を書いたり、自殺についての絵を描いたりする

 

具体的な行動に移すか否かは別として、心身共に成長途中の生徒の「死にたい」は、正常な発達の一つの側面でもあります。親からの分離を経験し、仲間関係を築いていく中で、つまずきを経験したりすると生徒は孤独を感じたり、悩みを誰にも言えずに抱え込んでしまうことがあるかもしれません。生徒の「死にたい」の多くは「辛さや苦しさをわかってほしい」という思いが背後にあるかもしれません。一方、精神疾患に罹患すると、「正常な心理反応」というよりは「脳の機能不全」の結果として自殺関連行動に結びつく場合があります。その場合、生徒の言動が「了解不能」な言動(=教職員から見て「なるほど」と思えない言動)として現れることがあります。

「この先生なら自分の苦しい気持ちを受けとめてくれる」というような困ったときに相談されるような信頼関係を、生徒との間に日頃から築くことが大切です。何気ない会話の中で、とても大切なことを話してくれるかもしれません。自殺の危険が高い生徒は人間関係における不信感が根底にあり、助けてほしいと思いながら、拒否的な感情や態度を表すことも少なくありません。また、気になる生徒に関しては、普段から家族構成や成育歴などを情報共有しておくとよいでしょう。

 

〈自殺の危険が高まった生徒への対応について〉

自殺のサインに気付いた生徒に対しては、安全の確保を最優先に対応することが大切です。教職員が一人で抱え込まず、管理職を中心とした全教職員で組織的に対応し、些細なことでも情報共有を図るようにしましょう。

「なんだか辛そうだけど、大丈夫?」「先生に手伝えることはない?」など、あなたのことを「気に掛けている」というメッセージが伝わると、それだけでもリストカットなどの自殺関連行動の大きな抑止力となります。傾聴することの意味の一つは、生徒自身の「語りを促すこと」です。傾聴する際、聴き手である教職員は、以下のような姿勢を意識するとよいでしょう。

① 良い・悪いは評価せず、生徒の言うことにじっと耳を傾け、辛さや苦しみを「受け取る」。

② 相づちや頷き、話してくれたことへの労い等は、辛さや苦しみを「受け取ったサイン」になる。

③ 教職員の傾聴=生徒の語りの促しは、生徒が「自分で自分を整える支援」であることを意識する。

④ 生徒が混乱した場合のみ、考え方のモデルやアドバイスを「シンプル」に「少しだけ」提示する。

⑤ 説得や命令、禁止、励まし等は、概して援助にならない。

 

 

心配な子を前にして、「どう接したらいいんだろう」「なんて声をかけたらいいんだろう」と迷った時、「TALKの原則」が役立ちます。

 

【「TALKの原則」とは】

① Tell :言葉に出して心配していることを伝える。

② Ask :「死にたい」と思うほど辛い気持ちの背景にあるものについて、率直に尋ねる。

③ Listen :絶望的な気持ちを傾聴する。

④ Keep safe:安全を確保する。(危険と判断したら、まず一人にしないで寄り添い、支援者も一人で抱え込まずに他からも適切な援助を求めるようにする。)

 

〈気づいたら、空振りを恐れず速やかに相談を〉

自殺の問題は「専門家といえども一人で抱えることができない」と言われるほど重く困難 な問題です。自殺の危険が高い生徒や自殺未遂をした生徒へは、学校内だけで対応するのでなく、精神科等の医療機関や児童相談所等の福祉機関などとの連携を図る必要があります。教職員は自分の「できること、できないこと」を自覚した上で、生徒に関わっていくことが共倒れを防ぐ上でも大切です。生徒や保護者の意向、スクールカウンセラー等の意見も聞きながら、どの機関に相談することが適切なのかを検討できるとよいでしょう。以下の相談場所も活用いただくと役に立つかもしれません。

 

・「こどもの自殺予防相談ダイヤル」

子どもの心のケアネットワーク事業における、教職員向け相談窓口です。電話またはメールでご相談いただけます。教職員からの、自殺未遂等の心の問題を抱えた児童生徒の医療機関受診の目安、診察へのつなげ方、診察まで時間がかかる場合の児童生徒・家族への接し方等についての相談に応じます。

電話:070-7594-7220(月曜:9時から11時半、金曜:9時から16)

メール:kodomo-net@ml.gunma-u.ac.jp

 

〈参考文献〉

「自殺の危険が高まった生徒への危機介入マニュアル」R48月群馬県教育委員会発行

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